NUCAllege vol.3 演劇ワークショップ レポート

NUCAllege vol.3 play workshop report

「NUCAllege / ヌカレッジ」とは
ぬかのスタッフ向け研修プログラムです。毎日いろいろな出来事がおこるぬかでは、ぬかびとさん(ぬかを利用してくれている人たち)だけでなく、スタッフも楽しく過ごし、充実した時間を過ごせることがたいせつだと感じています。スタッフも自分をみつめ考える。あたりまえのことかもしれませんが、忙しい日常の中では自分の時間は後回しにしがちです。ヌカレッジでは不定期で講師をお招きし、講座やワークショップを開催しています。ぬかや自分を見つめ直すためのコツや知識を得る貴重な機会として「学びの場/カレッジ」をつくります。

演劇ワークショップ|老いのリハーサル
講師の菅原さんは演劇人として東京で活動されたあと、震災後に家族で岡山に移住。もともとおばあさんの介護の経験から演劇と介護の相性の良さ、可能性を感じており、介護福祉士として和気町の特別養護老人ホームに勤務。老いと演劇を結びつけた活動として「老いと演劇OiBokkeShi」を立ち上げる。いままでに演劇作品の発表をはじめ、ワークショップや公演会など数多く出演されています。現在、奈義町アート・デザイン・ディレクター。

ぬかでのワークショップも今まで菅原さんがやられてきた「老いのリハーサル」というワークショップをもとに構成されています。
はじめに体を動かす遊び(自分の右手と左手を使いジャンケンをするゲームなど)を2つ3つやり、参加者がほぐれたところで「老人役」と「介護役」を設定した演劇をします。「老人役」は意図的にその場や状況とはそぐわない意味不明な言葉や動きをします。「飼っている蛇の頭が八つに別れて八岐大蛇になったから首輪が足らなくなったなど…」。「介護役」は「老人役の奇妙な言動を制止し、介護者の都合を優先した声かけをするパターン(今から夕食が始まるので食堂に行きましょうなど)」と「老人役の言動を受け入れて話を合わせ、介護役も一緒に芝居をするパターン(八つに別れた蛇の首輪を一緒に探しにいきましょうなど)」の2パターンを実際に演じてみます。そこで老人役を演じた参加者へインタビューします(ぬかでは老人役の参加者が飼っている蛇になりきってしまい…収拾がつかなくなってしまいました…(笑))。「演じる」ことを実際にやってみることは「想像する老人像を体を使いやってみること」で「介護する側」から「介護される側」になることができる体験です。頭で考えるだけではなく体を動かし「演じる」体験に想像以上の驚きや気づきがありました。介護される人にとって気持ちのいい対応はなにか、それとも不快な対応はどういったものか、そこにはどういった違いがあるのか?を身をもって考えることができます。その他「痴呆老人役1人の言動を5人1組の会話の中でどう扱うか」というワークや、「事前に渡された虫食いの台本(テキスト)に自身の記憶に残る出来事を書き込むことで完成する演劇創作/発表」などを行いました。

ぬかの日常でも同じような体験は数多く見受けることができます。例えば…渡辺晴美さん(以下はるみさん)との会話。
「山本さんよう来たなー(相手の方は山本さんという名前ではない)」「この前病院で会うたがなー(病院で会っていない)」「先生になんか言われたん?(先生…!?)」「あの人ひでーことするんでー(ひどいこと????)」。会話が突如として始まり、こちらの戸惑いや「?」マークは無視されていく。「はるみ劇場」。その劇場に立ったまま役者を演じるか、または舞台を降りて観客となるかは自由に選ぶことができます。ですが、往往にして晴美さんの会話にこちらが合わせて行くほうがスムーズにいろんなコトが進んでいくことが多いのです。はるみ劇場で自分の「役」を演じること、「役を受け入れること」が新しいコミュニケーションの可能性を広げて行くように感じます。
想像力を駆使して現在の自分とはちがった状況の人になってしまう。それは他者を演じることにつながり、他者になることで想像もつかない出来事への気づきが生まれる可能性があります。

菅原さんは演劇の特性として、そこに関わる人が何かしらの「役/役割」を与えられることに可能性を感じると言います。福祉の現場でも、施設に関わる人それぞれに会った役割を探し、考えることは難解ですがとても楽しくクリエイティブな作業です。個性的な人それぞれに合わせて周囲の環境を変化させ、その人が活き活きする瞬間をつくること。そういった環境をつくるときの関わりのコツが今回の演劇ワークショップに込められているような気がしました。


日時|2017年6月5日(月)
会場|ぬか つくるとこ


講師|菅原直樹(すがわら・なおき)
1983年栃木県生まれ。奈義町アート・デザイン・ディレクター。「老いと演劇」OiBokkeShi主宰。俳優、介護福祉士。四国学院大学非常勤講師。平田オリザが主宰する青年団に俳優として所属。小劇場を中心に新進劇作家・演出家の作品に多数出演。2010年より特別養護老人ホームの介護職員として働く。2012年、岡山に移住。介護と演劇の相性の良さを実感し、地域における介護と演劇の新しいあり方を模索している。

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